輸出免税

越境EC事業者が知っておくべき国際税務の基礎

重要度
★★★

越境EC事業者が知っておくべき国際税務の基礎

海外向けにインターネット販売を行う越境ECでは、国内ECにはない税務上の論点が発生します。

「どの国に、どのような税金を納める必要があるのか」を確認しないまま事業を拡大すると、後になって申告漏れを指摘されたり、追徴課税やペナルティが発生したりする可能性があります。

今回は、越境EC事業者が最初に知っておきたい税務の全体像を解説します。

越境ECとは

越境ECとは、国境を越えて、インターネットを通じて商品やサービスを販売する取引をいいます。

例えば、日本の事業者が海外の消費者に対し、Amazon、eBay、ShopeeなどのECモールや、自社のオンラインショップを通じて商品を販売するケースが代表的です。

越境ECでは、販売方法、顧客の所在地、発送元、在庫の保管場所などによって、販売先国の法令や税制への対応が必要になることがあります。そのため、国内ECに比べて、法務・税務・物流の検討事項が多くなります。

国内ECと越境ECの税務上の違い

日本の事業者が日本国内の消費者に商品を販売する一般的な国内ECでは、主に日本の法人税、所得税、消費税などを検討します。

一方、越境ECでは、次のような国がそれぞれ異なることがあります。

  • 販売事業者が所在する国
  • 商品を発送する国
  • 顧客が所在する国
  • 商品や在庫を保管する国

このため、日本と海外の複数国の税制が関係する場合があります。

また、どの国に課税権があるかは、単に「どの国の顧客に売ったか」だけで決まるものではありません。海外における事業活動の内容、恒久的施設(PE)の有無、在庫の保管場所、販売プラットフォームの役割などによって判断が変わります。

越境ECで関係する主な税金

越境ECで関係する主な税金には、次のものがあります。

日本の法人税・所得税

日本法人の場合、原則として、海外向け売上から生じる所得を含めて日本で法人税の申告を行います。

個人事業者の場合も、日本の居住者であれば、原則として国外で得た所得を含めて所得税の申告が必要です。ただし、非居住者や非永住者については、課税対象となる所得の範囲が異なります。

海外で法人税などを納付した場合でも、直ちに日本での申告が不要になるわけではありません。日本と海外の両方で課税される場合には、外国税額控除などによって二重課税を調整できる可能性があります。

日本の消費税

日本の消費税は、原則として国内で行われる資産の譲渡やサービスの提供などを課税対象としています。

日本から海外に商品を輸出する取引については、一定の要件を満たすことで「輸出免税」が適用されます。

ただし、輸出免税の適用を受けるためには、輸出許可書など、商品を輸出したことを証明する帳簿・書類を保存しなければなりません。海外向けの売上であっても、証明書類が不足していると、輸出免税が認められない可能性があります。

海外の法人税

海外に支店、事務所、人員、代理人などを置いて事業を行う場合、その国で法人税の申告・納税義務が発生する可能性があります。

この判断で重要になるのが、恒久的施設、いわゆるPEの有無です。

ただし、海外に倉庫や駐在員事務所があるからといって、必ずPEに該当するわけではありません。倉庫の利用方法、現地で行う活動、契約締結権限の有無、適用される租税条約などに基づいて個別に判断します。

VAT・GST

EU諸国のVAT(付加価値税)や、オーストラリア、シンガポールなどのGST(物品・サービス税)は、商品やサービスの消費に対して課される間接税です。

国外事業者であっても、一定の条件を満たす場合には、販売先国でVAT・GSTの登録、徴収、申告および納付が必要になることがあります。

ただし、登録義務が発生する基準は国によって異なります。

  • 販売額が一定額を超えた場合
  • 現地に在庫を保管した場合
  • 少額輸入品を消費者に販売した場合
  • デジタルサービスを販売した場合

また、Amazonなどのマーケットプレイスが販売事業者に代わってVAT・GSTを徴収・納付する制度を設けている国もあります。

自社に登録義務があるかどうかは、国、商品、販売方法、顧客が事業者か消費者かといった条件を踏まえて確認する必要があります。

Sales Tax

アメリカには、日本の消費税に相当する連邦統一のSales Taxはなく、州や地方自治体がそれぞれSales Taxを課しています。

州によっては、販売事業者がその州に店舗や事務所などの物理的な拠点を持っていなくても、州内への販売額などが一定基準を超えると、経済的関連性、いわゆるエコノミック・ネクサスが生じます。

エコノミック・ネクサスが生じた場合には、その州でSales Taxの登録、徴収、申告および納付が必要になることがあります。

ただし、登録基準や課税対象となる商品・サービスは州ごとに異なります。また、Amazonなどのマーケットプレイスを通じた販売については、マーケットプレイス運営者がSales Taxを徴収・納付する場合があります。

関税・輸入時の税金

商品が国境を越える際には、輸入国で関税や輸入VAT、輸入GSTなどが課されることがあります。

税率や少額貨物の免税基準であるデミニマスは、国や商品によって異なります。

また、誰が輸入者になるかも重要です。販売事業者が輸入者になるのか、購入者が輸入者になるのかによって、関税などを負担する者や必要となる手続きが変わります。

そのため、販売条件を決める際には、インコタームズや配送条件も確認しておく必要があります。

「顧客がいる国で必ず法人税を払う」とは限らない

越境ECで誤解されやすいのが、「海外の顧客に販売したら、その国で必ず法人税を納める必要がある」という考え方です。

法人税などの直接税については、一般的に、その国にPEがあるかどうかが課税関係を判断する重要な要素になります。

そのため、海外の消費者に商品を販売しているという事実だけでは、販売先国で法人税が課されない場合もあります。

一方、VAT・GST・Sales Taxなどの間接税については、PEがなくても、販売額、顧客の所在地、商品の保管場所などによって登録・申告義務が生じることがあります。

法人税と間接税では判断基準が異なるため、税目ごとに分けて検討することが大切です。

国際課税を考える際の4つの視点

越境ECの税務を整理する際は、次の4つの視点から自社の商流を確認すると分かりやすくなります。

1.誰が販売しているか

日本法人が販売しているのか、個人事業者が販売しているのか、海外子会社が販売しているのかを確認します。

契約上の販売者と実際に事業を行っている者が異なる場合には、取引関係を詳しく整理する必要があります。

2.誰に販売しているか

販売相手が一般消費者なのか事業者なのかによって、VAT・GSTなどの取扱いが変わることがあります。

また、自社サイトで販売しているのか、Amazonなどのマーケットプレイスを通じて販売しているのかも重要です。

3.どこから発送し、誰が輸入するか

日本から直接顧客に発送するのか、海外倉庫から発送するのかによって、消費税、関税、輸入VATなどの取扱いが変わります。

あわせて、販売事業者と顧客のどちらが輸入者になるのかも確認する必要があります。

4.商品・在庫・人員をどこに置いているか

海外のFBA倉庫などに在庫を置くと、その国でVAT・GSTの登録義務が発生する可能性があります。

また、倉庫の利用状況や現地スタッフ、事務所、代理人などの活動内容によっては、PEの有無を検討しなければならない場合があります。

ただし、海外倉庫に在庫を置いているだけで、直ちに法人税上のPEになるとは限りません。事業の実態や適用される租税条約に基づく個別判断が必要です。

まとめ

越境ECの税務には、日本の法人税・所得税・消費税だけでなく、販売先国の法人税、VAT・GST、Sales Tax、関税など、複数の税金が関係します。

「海外に売上があるから、その国で法人税を納める」と単純に判断することはできません。

次の点を確認し、自社の商流を整理することが重要です。

  • 誰が販売者になっているか
  • 誰に販売しているか
  • どの国から商品を発送しているか
  • 誰が輸入者になっているか
  • 商品や在庫をどの国に置いているか
  • 海外に事務所、人員、代理人などがあるか
  • ECモールが税金を徴収しているか

国ごとの登録基準や税制は変更されることがあります。海外販売を開始するときや、新たに海外倉庫へ在庫を置くときは、各国の制度に詳しい専門家に確認しながら進めることをおすすめします。


参考文献

本記事の作成に当たっては、以下の国税庁ウェブサイトを参考にしています。

1.国税庁「No.6551 輸出取引の免税」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6551.htm

2.国税庁「No.2010 納税義務者となる個人」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2010.htm

3.国税庁「No.2875 居住者と非居住者の区分」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm

4.国税庁「No.1240 居住者に係る外国税額控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm

5.国税庁「第2款 外国法人税の控除」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/16/16_03_02a.htm

6.国税庁「No.2883 恒久的施設(PE)(令和元年分以後)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2883.htm

7.国税庁「国際税務関係情報」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/index.htm

※上記は、主に日本の所得税、法人税および消費税に関する参考資料です。海外のVAT・GST、Sales Tax、関税などについては、販売先国・地域の税務当局や税関などが公表する最新情報を確認する必要があります。

※各国の税制や登録基準は改正されることがあります。実際の申告・登録の要否については、個別の取引形態や各国の最新制度に基づいてご判断ください。